前回は「新進気鋭」の演出家=前川知大さんを鑑賞しに行くという目線で、
記事をしたためましたが、今回は新進気鋭ではなく、
「女性」演出家と「男性ベテラン」演出家を軸にしたためようと思います。
■劇団本谷有希子「来来来来来」@本多劇場
「女性演出家」で最も僕が好きなのが「本谷有希子さん」です。
同郷石川県ということと、「劇団本谷有希子」というネーミングセンスに惹かれ、
初めての舞台を見に行ったのが、5年前でした。
サトエリで映画化された「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」です。
物語の起承転結具合と、特にエンディングが圧巻でした。
届いてると勘違いしていた赤いラブレターをはさみで切り刻みながら、
あまりの怒りとやるせなさに狂喜乱舞する主人公。
そして、かたわらにはコードのつながっていない扇風機。
主人公の狂気がそうさせたのか、急に扇風機が回り始め、
切り刻まれた赤いラブレターが宙に舞い、舞台が真っ赤に染め上げられていく様は、
異様でありながらも、感動的でした。
それ以来、何度か足を運び、どんどんファンになってゆきました。
と言いたいところなのですが、、、
実はなかなかがっちりと気持ちをつかまれないまま、
今にいたるというのが正直な感想です。
そして、今回の演劇も残念ながら、消化不良でした。
彼女の演劇のメタファーに「女同士のドロドロした確執」があります。
「腑抜けども・・・」は有能な妹と、自尊心の高い姉。
今回の「来来来来来」も、
偏屈な母と、小姑、そしてそこに嫁いできた気弱な嫁。
といったものです。
その「確執」をベースに人間の心模様を描いていくのですが、
今回の描き方に関しては、
役者さんのパブリックイメージを覆すことだけに注力されているようで、
話の深みを感じることがなかなかできませんでした。
ちなみに主人公は「クールビューティーの代名詞」りょうさんでした。
彼女がいじめられながらも孤軍奮闘する様を中心に描かれていましたが、
口汚いセリフを吐くシーンだけが、僕の心に残っているだけで、
展開の妙を感じることが少なかったです。
しかし、タイトルのネーミングセンスや、りょうさんを抜擢するなど、
そのちょっとおちょくったセンスは大好きだなと思いました。
■フキコシミツル・ソロアクトライブ「スペシャル」@三軒茶屋パブリックシアター
フキコシミツルさんが作・演出・主演をこなすソロライブです。
本当に舞台には彼一人しか存在しません。
小道具で椅子や、大型スクリーンなどが登場しますが、
体一つで複数の役者さんを演じ分け、観客の想像力をかきたて、
物語を構築していく様子は見事です。
今回も素晴らしかったです。
ある家庭の朝食風景を、初めは1人2役(母と父)で演じてゆくのですが、
そのうちその中におじいさんと息子が混ざってきます。
1人4役なのですが、それぞれの台詞がつながるような構成になっており、
本当に見事に物語を構築してゆきます。
立ち位置をそれぞれに変えながらの演技なので、
4人の会話がスピーディーになると、まるでダンスを踊っているようにも見える程に。
また、このライブの特徴のひとつとして、映像があります。
今回も映像がふんだんに使用されていました。
文庫本の背表紙を大型スクリーンに見せながら、
とある女性の部屋にきた男性の心模様を投影してゆくものや、
普段よく耳にしている言葉に変な漢字をアテ字にして面白がるものなど。
この場合の映像は「観客と、より設定を細かくシェアするためのもの」として、
その役割を与えられています。
なので、映像内のギミックは少ないのですが、
共通のビジュアルを見ることによる、
場の一体感が作り出されている効果があるように感じました。
ちなみに、僕が今までで一番好きだったのは「命がけの演技」というもので、
とんでもなく固く大きい鉄球を舞台上で振り子させながら、
その間をくぐりぬけつつ演技をするというものでした。
当たってしまうと本当に「死にそう」な固さ大きさなので、
文字通り「命がけの演技」ですよね。
そんな茶目っ気が好きです。
そして、今回もさまざまなバリエーションがあり大満足でした。
タイトルの「スペシャル」もきっと、自分にプレッシャーをかけられたんでしょうね。
これまた素敵でした。
(公式サイト)
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2009/09/post_162.html
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あまり極論すると語弊があるのかもしれませんが、
女性演出家は「心の機微を人間関係の中から描く事」に優れているように感じます。
なので、題材は恋愛ものなどが多く見受けられます。
対して、男性演出家は「ストーリーを構築していくギミック」に優れているように感じます。
フリをちりばめておいて、最後にそれをまとめあげるイメージです。
演劇の演出家とはやや異なりますが、
劇団ひとりの「陰日向に咲く」などが分かりやすい例でしょうか。
僕は欲張りなので、
女性演出家が「ストーリーを構築していくギミック」で作り上げてほしいと思い。
男性演出家が「心の機微を人間関係の中から上手に描く事」を期待してしまいます。
それぞれの要素を補い合うことで、面白い話ができることが多いように思います。
これまでを振り返ると。
ということで、次回最終回は、そんな贅沢をなかなかに叶えてくれる、
僕の大好きな劇団「ナイロン100℃」について書きたいと思います。
もう少しのお付き合いを。w
そして、ご興味があれば是非に演劇を楽しんでみてください。
面白いですよ。